野村美月「"文学少女"と穢名の天使」 感想

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素晴らしい。独特のどこか切なさの漂う文章に合わせて、各所に効果的にちりばめられる「犯人」の独白。
今作も、正に"文学少女"シリーズと言うに相応しい出来栄えだ。
今回の主題は「オペラ座の怪人<ファントム>」。そして、琴吹ななせ。物語は琴吹ななせの友人と、彼女を中心とするファントム、天使の関係によって語られる。しかし、今作で注目すべきはあくまでもそれを通じた琴吹ななせと井上心葉の成長にある。


ななせはファントムには決してなれない。だけどラウルにはなれる。
と、天使によって語られるように、琴吹ななせは"文学少女"シリーズのレギュラーとしてはむしろ珍しく「心に傷を持たない」人物だ。
だけれども、人間としての強さ――心に大きなショックを受けたとき、それを乗り越えられる精神的な強さ――を井上心葉と共に持とうとしているのが彼女だと思う。1巻では本当に、単に井上心葉に好意を寄せているだけの女の子だったけれど、このまま行くと遠子先輩とは少し違った形の強さを持つようになりそう。シリーズ全体を通して見ると井上心葉の成長がどうしても印象に残るが、今作を読んだ後で改めて考え直してみると、琴吹ななせの成長も見逃せないファクターになっているように思う。井上心葉は、

きっとぼくがファントムにならなかったのは、遠子先輩に会えたから。
と語っており、それは事実だとは思うのだが、井上心葉と共に歩いていくパートナーという意味では、最終的に琴吹ななせがその位置に収まるのではないだろうか。
遠子先輩が卒業した後も。

ところで、このシリーズ。井上心葉の成長ストーリーとしては、遠子先輩は「無敵」なままで終わってほしいなあ。
前作でちょっと語られていた遠子先輩の小学生時代とかのダークサイド・ストーリーは、外伝として描いてもらうといいと思う。


挿絵のあとがきへの感想。
「ちょ……、描けよーー!前回の文化祭に続いて楽しみにしてたのにー!」


妖怪"文学少女"って設定は、そろそろ本気で要らなくなって来た気がする……けど、この設定があったからこそ私はこの本を手にとったわけで。