第9地区

http://d-9.gaga.ne.jp/
視聴。
南アフリカ共和国ヨハネスブルクに巨大宇宙船が浮かぶ世界。宇宙船に乗っていたのは社会性昆虫に似た性質の異星人(その外見から作中ではエビと呼ばれる)だが、頭脳階層は何らかの原因で死に絶えており残っていたのは野蛮人程度の知能しか持たない何十万ものエビ達だけだった。そしてエビ達がヨハネスブルク『第9地区』にスラム街を形成してゆき28年が経過する。
以下完全にネタバレ。
映画としては100点。SFとしては60点。SFとしても面白い素材ではあったが、物語展開をエンターテイメントの方向に持っていったのは正解だと思う。
日常的に存在する異物というエイリアンの変則的な立ち位置とヨハネスブルクとが絡んだ文化の見せ方が特徴的。日常となった空にも浮かぶ巨大な宇宙船や、その下に広がる異星人と人類の入り混じったスラム、というSF的にハイセンスな材料が揃って居るがよくも悪くも映画的な作品にまとまっている。
黒い液体を浴びて徐々に異星人へと変貌してゆくという展開がありながら、主人公の心は最後まで地球人のままであること、結局はクリスという「人間として理解できる」異星人と分かり合うという話になってしまうことは、本作を理解しやすく簡単に楽しめる作品にしているがSFとしては残念だ。異種族化したことによる世界の変容まで抑えてくれれば最高だったのだが、前述したように異種族化といっても主人公の内面は地球人のそれから全く変わらない。ただ、だからこそ完全に異種族化した主人公がエビとして生きるラストシーンの苦悩が活きてくるというわけで完全にそれがマイナス点だったわけではない。
そして、映画としては大満足できるストーリーに仕上がっている。主人公を中心としてマフィア、軍人、異星人と様々な勢力が入り乱れ、最後まで二転三転する息もつかせぬ展開を見せてくれる(ちょっと人が爆発しすぎだがw)。ヨハネスブルク上空の巨大宇宙船と異星人のスラム街という設定だけに頼らず、そこから巧くストーリーを引き出し、ラストも想像の余地を残してくれた巧い作品だった。


クリスの存在は無しで偶然拾った黒い液体から、今まで居なかった頭脳階級の地位に納まり、その過程でリングワールドの「プロテクター」のようにエビを守らねばならないという本能に目覚める、という展開とかだったら、SF的には萌えるのだが。