マックス・ブルックス「WORLD WAR Z」

読了。
世界中でゾンビ病のアウトブレイクが発生し、人間社会を崩壊寸前まで追い込んだ「世界Z大戦」から十数年後、かつてのZ戦争を経験した(もしくは現在進行形でゾンビの処理を行なっている)様々な人物へのインタビューという形で物語が進む作品。
巨大なスケールで話が進む上にゾンビが社会にどのような影響を与えるのか丁寧に描いている作品であり、小松左京の「日本沈没」や「首都喪失」と同じ系統のシミュレーションノベルとしても高い評価ができる。
表にはゾンビという題材を置きながら、この作品の本当の姿は現代社会を一旦リセットされてからゾンビという要因がある中で新たな秩序が生まれていくさまが大きなテーマになっているのだが、もちろん個人へのインタビューを通じて描かれるゾンビとの直接的な戦いもも、エンターテイメントとして十分な力を持つ。
500ページ超という大作である点は、手軽に手をだせないということで少しマイナスか。



近年はデフォルトで走るゾンビが多くなっている中、本作のゾンビは過去のイメージそのままの「鈍重で、脳を潰さない限り動き続け、大量に押し寄せてくる」という基本に忠実なゾンビになっている。
ただ、物語が全世界を何年ものタイムスパンで描く関係上、ゾンビの何があっても死なず動き続けるという面が強調され、ゾンビは病気の人間ではなく超常的な存在であるという側面が強く感じられるものとして描かれる。特に難民船からの落下で生まれる「海の底を這いずり続けるゾンビ」や、寒冷地帯での「冬には完全に凍結し、春に自然解凍で復活するゾンビ」というビジョンは特徴的。