グレッグ・イーガン「祈りの海」

祈りの海」読了。やはりイーガンは、センス・オブ・ワンダーの体現者だ。
本作は短編集という形を取っている。クラーク氏や小川一水氏の作品にも言えることだが、やはりSFというジャンルが持つ特徴の、圧倒的なスケールの「世界そのものの法則」を描き出すという目的には短編と言う形がマッチしているようだ。
ただし、イーガン氏の作品はそれだけに終わらい。私としては読んでいるときに「何か」の違和感というか異物感のように感じていた要素がそれである。本作の解説で言語化されているのだが、それはアイデンティティの問題である。SF的な大仕掛けを用いた、当人にとっての世界の変容とそれによる自分自身というものの揺らぎ。これこそが、イーガンの最大の特徴なのではないだろうか。
とは言っても、やはり私はイーガンのどこが好きかと言われると、世界観を変容させるほどのガジェットという面の方が強いだろう。どの作品も、「日常」がそのまま我々にとっての物語になるほど常識が違う世界を持った人々が主役となっている。いま、目次を眺めてどれが特にその傾向を持っているかを書き出そうとしたら、世界全体が違うのであれ、主人公だけが違うのであれ、掲載されている全ての作品がそうだったので、改めて驚いている。これだけの異世界を描き出す作家は、そうそう居るものではない。
SF好きも、そうで無い方も、是非手にとって読んで貰いたい本である。