小野不由美「屍鬼」

読了。
現在、漫画とアニメで連載中の「屍鬼」の原作。屍鬼と呼ばれる存在に侵食されてゆく田舎の村を描いた群像劇である。
普通は原作まで読んだりはしないのだが、アニメの出来があまりによかったので手をつけてみた。結果、期待に違わぬ名作だった。
第一部で村が徐々に死に包囲されてゆく違和感を描き、第二部ではそれを理解出来ない存在の恐怖へと発展させてゆく。主人公等はそれを伝染病として対処しようとするが徐々にその枠に収まり切らない状況が見えてくる。その展開は徹底的に恐怖の正体を描写しないままに語られてゆく。恐怖の正体を、理屈と経験で対処可能な疫病という存在に一時固定させてから、それを屍鬼という理解の出来ない存在に変質させてゆくことで、最大限に理解できない存在に対する恐怖を引き出している演出が見事。
化物を絵として簡単に登場させてしまう漫画とアニメ版と違い、小説ではここまで恐怖の正体を徹底的に直接描写しないという演出がされている。それは漫画とアニメ版がエンターテイメント作品であることに対して、小説版が本質的にホラーであることを示しているのではないかと思う。
続く第三部では屍鬼による村の包囲、第四部で反撃が語られる。意外にも、そのようにして迎えた第四部に待ち受けていたのは人間による屍鬼の殲滅のカタルシスではなく、狩られる側の存在となった屍鬼に主眼を置いた、廃墟を眺めるときに感じるのと同種の感動を呼び起こす、滅びの切なさだった。



閉鎖的な田舎社会を舞台にしている点や、事件後に奇妙な痕跡を残して村は解体されてしまうという点、忍び寄ってくる恐怖の表現など、「ひぐらしのなく頃に」と共通点が多く感じた。
(「ひぐらし〜」の方が発表年は後)

伏線かと思ったけど伏線じゃなかったこと。いかにもと感じたので現在進行中の漫画版で何かしらフォローがあるかもしんない。
沙子を屍鬼にした真祖が出てくるかと思ったけど、登場しなかった。
用水路に屍鬼の血が混じることで、それを間接的にでも摂取した住民が屍鬼に。
……後者は、屍鬼は生物的には説明の付かない特徴をもった存在なので無いかも。