田中ロミオ「人類は衰退しました」 感想 その1

俺センサー大成功!
たまたま寄った本屋で一目ぼれして買ったはいいけれども積み本化しているところを、404 blog not found などの紹介エントリに影響されて読んでみたのだが……、まさかこうも予想外の方向からの楽しさを提供してくれるとは。以前に一目ぼれして買った"文学少女"と"ちーちゃん"も大当たりだったし、本当に一目ほれってのは大切だと痛感した。
本書の基本的なストーリーは、ゆるやかな衰退を迎えた人類のおだやかな黄昏と、旧人類の代わりにどこからか現れた「妖精さん」と人との日常を描くというもの。
基本的にはこの衰退した人類というあたりに惹かれて購入に至ったのだが、本書の本当のセールスポイントはそこではない。この作品のポイントは、作者がアルファギークのブログを購読してるような人であり、その精神を作品に反映させている、というところだ。
例えば、読み進めていくと「知の高速道路に乗って一人前になりたいんです」なんていう台詞が飛び出してくる。この台詞、もともとは将棋の羽生名人の発言で、現在のネットによる知の共有化の状況を上手く表している言葉として有名なのだ。まさか名人も、自分の台詞がライトノベルで使われることになるとは思いもよらなかったろう。ちなみに、作品世界中には既に高速道路なんて代物は機能する状態では存在しないわけで、これは明らかに、明らかに狙ってやっている。
また、旧人類の代わりに地球の主だる知性の座についた「妖精さん」の描き方も面白い。彼らと初めて会話するシーンでネット「あちら側」の人にはピンと来るだろうけれど、彼らの正体はきっとある種のネット住人だ。(この文章書いている時点では100ページ目までしか読んでいないので、本当にそうかはわからないけれど) 何人かでうだうとノリだけの会話している点なんかが、実にそれっぽい。妖精さんの喋り方は、発言までの敷居を極限まで低くしたwebサービス……ニコニコ動画や2chなんかの感触にとても似ているのだ。集団になると個体とはまったく違った性質を持つということや、一夜にしてゴミの山をミニチュアのメトロポリスに変えてしまうという脅威の――そして勢いがその原動力である――技術力といった妖精の特徴も、ネット住人のそれとピタリ一致する。
しかし、「妖精さん」という人以外の知性体が喋っているからこそ気付いたんだけれども、考えてみればこのコミュニケーションのとり方は、人類の言葉は喋ってはいるけれど、基本的に(個人としての)人とは根本的に異質な知性を感じさせられる。そして恐ろしいことに、こういう知性はネット上に既に存在している。そればかりか、それを形作るのに力を貸しているという意味で、私もその異質な知性の一部なのだ。
実に自分のツボをついている作品だ。けど……、一般的に広く受けるかというと予想がつかない。私がこんなに面白いと思っているのも、予備知識があるからかもれないし。
層は限定されるけれど、面白い人には非常に面白い。「人類は衰退しました」は、そういった作品だという気がする。


著者である田中ロミオ氏は、これがデビュー作らしいので次の作品にも期待。



ところで、

という特徴は明示的に書いてある。背の高さはとにかく、この最後の「眉が太い」は主人公の祖父の
台詞として一回しか登場しないのだけど、きちんと読めば読み落とすことはない。しかし、
イラストの主人公の眉は見えないほど細いのだ。ぶっとい髪(というのかあの独特の髪の描き方)から、
もうしわけなさそうにうっすら透けて見える程度なのだ。
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50862763.html
という主張があるが、イラストを見ると「眉が太い」表現になってると思うよ?これは、イラストを読む側のセンスと、このイラストが狙っている層のセンスが違うってだけなのでは。
ポイントは、眉が1本の線じゃなく眉の輪郭で描かれている点。AIが止まらないの太い眉毛ってこんな表現じゃなかったっけ?