テッド・チャン「息吹」

読了。
あなたの人生の物語」に続く2つ目の短編集。
以下ネタバレあり感想。

商人と錬金術師の門

中世の中東を舞台した、過去は変えられないタイプのタイムトラベルもの。
話の流れとして驚くような仕掛けがあるわけではないが、読後感のよい救いある話。
物語のテーマが「あなたの人生の物語」に通じるところがある。

息吹

表題作。
機械仕掛けの非人類知性体の宇宙の終焉を描く作品。我々の宇宙における「熱的な死」のようにエネルギー勾配がゼロになることによる宇宙の死が迫っていることを知ってしまった科学者の話。
シリンダーの中のような世界で空気圧の差によってすべてが動いている世界なので、もしかすると何かの機械がモチーフになっているのかもしれない。

予期される未来

シンプルに未来が決まっていることを示す「予言機」を題材にしたショートショート
決定論と自由意志は同時に両立すると思う自分にとってこの手の話は、意思で因果律を変えられる=自由意志があるという考えのほうが不自然に思える。

ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル

人工知能育成の話。少しイーガンっぽい。

デイジー式全自動ナニー

機械による子守の話。

偽りのない事実、偽りのない気持ち

ライフログの検索技術が進歩したことによる自身のエピソード記憶の外部証明が可能になった時代を描く作品。
それが暴き出す偽記憶の話なども入っており、人格の在り方について考えさせられる。

大いなる沈黙

鳥のオウムとフェルミパラドックスの話。

オムファロス

神による世界創造の地質学的証拠が存在するという魅力的な世界観から、エーテル風の存在は地球が宇宙の中心ではない証拠ではないかという神の意思によって人類が作られたことを否定するパラダイムシフトをぶち込んでくる作品。
この世界観を組み直さざるを得ない事件を描くのは、まさにSFだと思う。
後ろの方にある作品だが、表題作に並ぶほど好み。

不安は自由のめまい

その装置が稼働しはじめたときに発生する平行世界との通信が可能になる「プリズム」と呼ばれるガジェットを扱う作品。プリズム自体のアイディアもそれらを使ってどのような商売・社会的影響などが生まれるかということも丁寧に描いてある。
しかし主題は自由意志のそれであり、平行世界の自分が自分と異なる行動をしたとき、自分もその行動をとるような人物と考えるべきなのかという「責任の物語」。