月に囚われた男

視聴。低予算作品ながら名作だった。
いわゆる「閉鎖系」の作品でメインの登場人物も一人ながら、彼の居る月基地という環境自体が謎であり、敵であり、仲間であるという点が面白い。
第9地区」と同時期に公開された作品でお互いSFという共通点を持つ。演出の方向性は、大きく異なるがどちらもSFとしての要件を満たした良作だと思う。
主人公サムは、資源採掘機械の監督役として月基地で一人孤独に勤務している。3年契約の満期が迫ったある日、サムが月面で事故を起こして車両内から抜け出せなくなるのだが、それによって月面基地の持つ奇妙さが浮かび上がってくる。
そこから「月に囚われた男」というタイトルは物理的にではなく、システム構造的に脱出することが不可能になっている点を視聴者に悟らせる展開は、視聴者から巧く諦めの感情を引き出している。そしてその感情は次の展開を映えさせるスパイスとして働く。
囚われたシステムから逃げ出すだけでなく、構造から脱出を構造の破壊につなげてシステムに対する一応の決着を示した点は、投げっぱなしにせずに作品の締めという区切りを上手く付けられたという点で素晴らしい。



この作品の核は月基地が組み込まれているシステム構造を解き明かしていくという点だが、人工知能ガーティとの友情も泣ける。
もうね、ガーティに対しての

「記憶の中の地球そのままだといいね」
「ありがとう。大丈夫か?」
「もちろんだ。再起動後、新しいサムと僕はプログラム通りにやっていく」
「俺達はプログラムじゃない。人間だ。分かったか」

というやりとりは涙腺崩壊ですよ。



採掘によってクレーターの輪郭が削られた月、というビジュアルが出てくるが、あれも1枚の絵としてセンスオブワンダーを完成させてるな。

この作品、月版蟹工船とも言える。