H.F. セイント「透明人間の告白」

読了。
面白い。自信を持って面白いを言える作品だった。
この物語は、ごくごく一般的な証券アナリストであったハロウェイが特殊な事故に巻き込まれたことで体が透明になってしまい、その存在を知った政府に追われることになってしまう、という物語である。
物語は、事故現場で彼の存在に気付き彼を捕まえようと奔走するジェンキンスとハロウェイの追いかけっこに終始する。透明人間であれば政府に追われたとしてもなんとでもなると考えるかもしれないが、本作では人間が本当に透明になってしまった場合にどのようなメリットを享受でき、どのようなデメリットをこうむるのかを丹念に考察してそれを描き出している。透明になったからといって何でも自由にできるということは当然ない。なにしろ透明であるということは、人や車が自分のことを一切気にせずに突っ込んでくるということであるし、誰かと直接会って話をすることが不可能だということでもある。また社会的な面から言っても、本人が出向いて結ぶ必要がある契約は基本的に行えないし、食っていくための金を稼ぐのひとつにも思考をめぐらせ、様々な奇手を駆使する必要がある。
そんな状況で食料や寝床も確保し、しかもジェイキンスの包囲網から逃げつづけなければならないのだ。
何度もニアミスを繰り返し、透明な人間を追い詰める術を見つけ出そうとするジェイキンスと、体が透明だというデメリットを克服する方法を模索しながら逃げるハロウェイ。是非、彼らがニューヨークを舞台に繰り広げる大活劇を読んで欲しいと思う。



あと、翻訳もいいのだと思う。和訳した作品は読むのに疲れる作品がたまにあるがこの作品ではまったくそのような苦労を感じなかった。

ちなみに、彼が透明になって通常の食べ物で生きていけたことはある状況を示唆している。それは、彼の体に共生していたの大腸菌や様々な微細な生物も透明になっているということ。当然それらは透明なまま増殖しているだろうことから、彼が行動した周辺には「透明な生物」が広がることにならないだろうか?