野村美月「"文学少女"と繋がれた愚者」 感想

http://www.amazon.co.jp/dp/4757730845
"文学少女"シリーズの第三弾、繋がれた愚者です。
前作、前々作と同じく非常にすばらしい読後感与えてくれる作品でした。これだけ切なく、そして前向きな感情を揺り動かされる物語は、ほかにいくつも知りません。そして、それがシリーズ全作において保たれているというレベルの高さには、もう感嘆するしかないでしょう。読んでいるときに感じられる独特の雰囲気も、もちろん健在です。心葉くんと遠子先輩の日常と、「愚者」の独白による心動かされる不安感。それらが作品を呼んでいる間、体を包み込んでいるのです。
今作の主眼は主人公の成長でしょうか。主人公である心葉の抱える心の傷を写した影であるかのような「愚者」の存在にスポットを当てた話の中で、心葉もまた彼の思いに共感してゆきます。前作までの心葉は、事件の中心人物とある面には共感を得ながらも、流れるままに事件の終わりを迎えていました。しかし、今回も事件の中で流されてゆくという面では同じなのですが、そこから共にそれを乗り越えて何かを得ることが出来たという点で、いままでと大きく異なった結末となったと言えるでしょう。
話は変わりますが、遠子先輩は……無敵なのでしょうか。いえ、戦闘において誰にも負けないだとか、そういったことを言っているわけではありません。強さとは何かに打ち勝つ強さではなく、人を助けられる心の強さの事です。人の弱さを描くというこのシリーズの中にあって、唯一確固たる強さを持っているのが彼女なのだと思います。
興味深いエピソードとして、遠子先輩と共に小学校に赴くシーンで小学校3年生くらいまでは、遠子先輩も学校に苦手な意識を持っている普通の女の子だったことが語られています。生来、そういった性格をもてる資質があったというところは大きいでしょうが、いったいどのような糧によっていまの遠子先輩の強さは生まれたのか、少し気になるところです。
このシリーズの特徴として、事件の後日談がとても繊細に語られるというものがあります。そして今回も後日談が語られているわけですが、その最後の最後で気が遠くなるような真実が明かされます。最後の一行でこんなに衝撃を受けたのは、アーサー・C・クラーク「宇宙のランデヴー」以来ではないでしょうか。
これは……次回の展開が気になってしかたありません。


ところで、「死にたがりの道化」の表紙が「このライトノベルが凄い2007」の堂々の一位となったそうです。おめでとうございます。と言いますか、むしろこれを一位とせずに何を一位とするというところでしょうか。本当に竹岡美穂の挿絵は"文学少女"の体現です。
ちなみに、今作「繋がれた愚者」の表紙もそれに負けず劣らず素敵なものです。本を食べている第一巻のイラストのように違和感と共に人を惹きつける力とは違いますが、シリーズを重ねることによって出来ている作品の雰囲気がとても素直に感じられます。ここまで読んできた人達には、第一巻よりもこちらの方が好ましく思えるのではないでしょうか。