第六大陸 小川一水

ワインを幾年もの間、薄暗い闇の中に寝かせておくのは、最高の味に変化するのを待つためだ。
そして、その変化していく中で生まれる最高の味、というものは、人間にも通用する考えだと思う。
作家の場合には、その瞬間に存在した味を作品という形で残すことができるので、どのような傾向で変化していったのかが実感できる。
そこでタイトルに出てきた小川一水という作家である。
彼のデビューはライトノベルであり、作風もそういったものだった。
そして、今は政府の崩壊と再生を描く「復活の地」を見事に描き切ることが出来る人間となっている。
その変化の中で、一番彼の作風が私好みの時期に書かれたもの。それが、「第六大陸」だ。
徐々に興味の方向が現実的な世界に向かっていく中で、子供っぽいヒーローを描いたような夢想的なエッセンスが、適度に残ったバランス。
そのバランスが、第六大陸を見事な作品にしているのだ。
現在の小川一水は、確かに技量のある書き手ではあるが、荒唐無稽な世界を描き出すには
いささか多くのしがらみを考えすぎているように思う。
願わくば、また別の方向への変化を起こし、再び、変化の中で絶妙な味を持つ作品を生み出していただきたい。