http://www.amazon.co.jp/dp/4044292094
涼宮ハルヒシリーズ9巻。前/後編を構成するうちの前巻。
素晴らしい。時間移動モノというのは小説ジャンルとして確立できるほどにありふれた……とは言いがたいが、ちらほら見かけるものである。しかし、平行世界を並列的に描く、となるとこれはもうそう言うアイディアを扱った作品、という単位でしか存在しない希少な種類の小説である。そう、涼宮ハルヒの分裂はそういった作品なのだ。
序章から微妙な違和感を受ける段組で文章が綴ってあり、後に平行世界ごとに上段にずれた段組と下段にずれた段組に分かれるという演出が素晴らしい。作中作を熱かった作品でたまにフォントを変えるという手法が使われるが、それと同様に最初に少しだけ違和感を与えておいて、後にそれを昇華させると共に物語の枠組みを理解させるという効果を上手く生み出している。これは奇手だが、賞賛されるべき手法だと言えよう。
物語的には、1年生編と比較して大きな転換を見せている。SOS団のカガミ写しのような
「敵」の存在が、その鏡面に位置するキョンの立場をより強く描き出している。というか、
ハルヒに対応する人物すら居るのに「キョン」の役割を持った人物が居ない。最初は、佐々木がキョンに対応する人物かと思ったのだが……。(ハルヒは全ての焦点だけに、対となる人物が居なくてもそれなりに納得できる)
これは、宇宙人未来人超能力者が闊歩する世界の中でのキョンの特異性をよりいっそう際立たせる事実だと言えよう。
なんにしても、後巻が楽しみな作品。