ブロック・チェーンでチケット転売問題は解決できない

http://www.huffingtonpost.jp/yoshiyuki-oshita/secondary-ticketing_b_17085920.html

前提

ここでは、ブロック・チェーンでチケット転売問題を解決という主張についてのみ反論する。スマートコントラクトによる新たな事業形態などのメリットなどは考慮しない。単に私は「ブロック・チェーンで転売を防止」という名目を掲げることが間違っていることを指摘したいだけだ。

主張

「ブロック・チェーン」を導入することにより、転売の事実及び取引価格の情報を正確に把握することが可能となる。
そして、転売価格に基づいて、券面価格との差額の一定割合を徴収し、それをアーティスト等に還元することも原理的に可能となる。

反論

「ブロック・チェーン」を導入しても、ブロック・チェーンの外で行われる転売の事実やその内容を把握することは出来ない。具体的には、転売屋が持っているブロック・チェーン上に記録されたチケットIDを購入者にそのまま教えて、購入者が転売屋に金銭を支払うことを防止できない。
そして、転売屋にとっても、購入者にとっても、ブロック・チェーンの外でチケット売買を行った方が得である。転売屋の立場から考えると、ブロック・チェーン内でチケットを転売をすると、「アーティスト等に還元するための金額」が自動的に徴収されて儲けが減る。よって、転売屋は少し値引きをしてでもブロック・チェーン外で転売をした方が儲かることになる。購入者の立場から考えると、同じ利益率のチケットを購入する場合、ブロック・チェーン外で転売されるチケットは、ブロック・チェーン内で転売されるチケットより安く購入できる。
よってブロック・チェーンを導入しても、転売はブロック・チェーンの外で行われるだけであり、問題は全く解決しない。
(ブロック・チェーンに記録された購入者IDから本人確認をすれば済むという話ではない。既にチケットと購入者の紐づけを会場で確認することは行われているが転売を効果的に防止していない)

蛇足

そもそも(パブリック)ブロック・チェーンと、チケット販売は相性が悪いのではないか?
なぜならば「採掘者」はどの取引をブロックに組み込むかを決める権利を持っており、それによりチケットが購入できたかどうかが変わるからだ。転売屋が運営する採掘ノードは「自身がチケットを購入できた」というチェーンを採用するインセンティブがある。そして、それは各転売屋ごとに違うチェーンを採用するべきインセンティブとして働く。
つまりブロック・チェーンでチケット販売を行うと、ハードフォークを誘発してシステムが破たんする可能性が高まる。
それが嫌なら(会社などの)信頼できるノードにしか採掘権を与えないプライベートチェーンを採用するしかないんだが、それなら中央集権サーバを立てるほうが費用的にも性能的にも有利だって話である。
ただし、これについては上手くシステム設計をすれば解決できるかもしれない。例えば、チケットの初期販売のブロック作成は信頼されたノードでのみ行える。チケット転売のブロック作成は誰にでも行える。というような分け方をするとか。