白井カイウ・出水ぽすか「約束のネバーランド」

読了。
鬼の食用児たちが、鬼たちの食べ物という立場を脱却するために奮闘する物語。孤児院脱獄編までは読んでいたが20巻で完結したので最後まで読んだ。
……が、結論としては孤児院脱獄編まで読めばそれでいい作品だった。



知性鬼の貴族階級最高位である女王を倒すところまではまだいいが、その後で二世界間の調停役である人間のピーター・ラートリーがラスボス枠を引き継ぐあたりからご都合主義がひどくなってくる。
ピーターが執拗にエマたちを殺そうとする動機もよくわからなければ、鬼の世界を征服してやろうという行動に走る理由もよくわからん。シェルターの食用児を殺すための軍人を送ってくるあたりまでは約束の対価である「調停役として二つの世界の平和を保つこと」を目的とした行動だと言われて納得できるが、女王が死んだあとの行動はただ物語に新たな悪役がほしかったから作者に屑ムーブをさせられているだけにみえる。
あと大円満に向かって鬼と人間の間の問題がほぼ全部解決されるので、厳しい試練を乗り越えて「鬼の頂点」と交わした「新しい約束」が無くてもハッピーエンドになるのでは……という状況になってしまっている。
というか人間世界に逃げて終わりより、人を喰う必要がなくなった鬼との共存という道のほうが物語の終わり方として綺麗だったと思うけれど、「約束」の伏線を回収しないわけにいかないから人間世界に行くエンドにするしかなかったように思える。
あと物語全体のキーとなる鬼と人間の「約束」が条約などの破ろうと思えば破れるものではなく、超常的な力によって履行されているというのも、物語構造としてその例外を納得させるだけの説明が不足しているように思う。
ネバラン世界観では、鬼という異形の怪物は居ても基本的に魔法や奇跡は無く、鬼自体の出自も食べた物の性質を取り込む細菌に似た何かから進化したと説明されるなか、「鬼の頂点」だけが世界そのものを2つに分割して往来を不可能にするだとか、全食用児を別世界にテレポートさせるだとか神のような力を振るっているというのは何なんだ。

まあ文句は多いながら完全に駄作になったとは言えないクオリティは保った作品なので、最後まで読んでよかったと思う。

好きなシーンは、秘密の猟場編で「約束」により人間狩りができなくなって食事の味もわからない状態だったバイヨン卿が「狩りもどき」をすることで食用児の肉に味がする(気がする)と涙を流すシーン。
そりゃ狩りに生きがいを感じてた人が、800年も農園管理をさせられてたら鬱病にもなる。